ハイスループットDLS測定によるタンパク質のコロイド及び熱安定性の評価‐拡散相互作用パラメータ(kD)の決定‐

バイオ医薬品の開発において、その品質を確保する上で、タンパク質の安定性を評価することは非常に重要です。その評価には、通常、候補分子、バッファー条件、添加剤の膨大な組み合わせを確実にテストすることが求められます。

本アプリケーションノートでは、プレートリーダー型動的光散乱測定器DynaPro PlateReaderⅡを用いたHTS(ハイスループット・スクリーニング)-DLS測定により、抗体のコロイド安定性及び熱安定性という凝集のし易さに関係する2つの指標を決定し、候補となる製剤の有効性と調製法の条件を同時にランク付けできることの例を紹介しています。

DLS測定では、ブラウン運動による光散乱強度の揺らぎから、拡散係数Dtを求めることができますが、このDtの濃度依存性を測定することで、拡散相互作用パラメータkD(平衡解離定数とは異なります)を求めることができます。このkDは第二ビリアル係数A2と直接関係があり、コロイド安定性の熱力学的な指標として利用できます。(正のkDは分子間の斥力を示し、負のkDは分子間の引力を示します。)第二ビリアル係数の測定を少量かつハイスループットで行うのは困難な為、kDは、その代替値として、異なる蛋白質の調製法を迅速に比較し、より安定な蛋白製剤の選択または作成に利用することができます。

測定結果

pH の違いによる相互作用パラメータkDの測定結果

以下の図は、動的光散乱測定による流体力学的半径Rhと各タンパク質の濃度、pH の関係(図1)と、その測定値から求めたpHkDの関係を示しています。この抗体は全てのpHにおいてkDがゼロ以下を示し、オリゴマー種が会合する傾向を示しています。

 

        

図1.3種のタンパク質に対する濃度とpH、Rhの関係    図2.3種のタンパク質に対するpHとkDの関係

熱による凝集挙動

以下の図は、pH8.5(図3)とpH9.5(図4)における各濃度に調製した抗体の温度による流体力学的半径Rhの変化を示しています。pH 8.5においては約55℃の転移温度以上で、急速に凝集体を形成し、その開始点は、濃度に依存することが確認できます。また、最終的な凝集状態も濃度に依存することが確認できます。

一方、pH9.5では、62℃以上で典型的なIgGRhである4.8nm付近から15~22nmの安定した値にシフトしており、可逆的なオリゴマーの存在を示唆しています。

 

        

図3.pH 8.5における抗体の調製濃度と温度、Rhの関係    図4.pH 9.5における抗体の調製濃度と温度、Rhの関係


熱転移における相互作用パラメータ kD

以下の図は、pH 8.5(図5)とpH9.5(図6)における抗体の最も低い濃度での、温度と流体力学的半径(Rh)、相互作用パラメータkDの関係を示しています。両者の凝集挙動が大きく異なることが確認できます。

 

      

図5.pH 8.5における温度、kDRhの関係       図6.pH 9.5における温度、kDRhの関係  

このように、プレートリーダー型動的光散乱測定器DynaPro PlateReaderⅡを活用することにより、迅速なタンパク質の調製法のスクリーニングが行えます。

尚、本データに関する詳細な情報は、こちらにてご確認頂けます。

本アプリケーションで使用している装置

プレートリーダー型動的光散乱測定器 DynaPro PlateReaderⅢ

 

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